| タイトル |
日 時 |
レイア 50(最終話)
生きている人は、いつかは死ぬ。
私は玉ねぎを切りながら思った。
そしてそれは、そんなに遠い先じゃない――またいつかは、黎亜の迎えを受けるときが、きっと来るのだ。
だって黎亜も云っていた。
最後の言葉として、云っていた。
「んではまた」
また、必ず遭うからだ。
それは明日かも知れないし――五分後かも、知れないのだ。
その瞬間が訪れるまで、私はしっかり生きていなければ。
食べて――動いて、感じて考えて、眠って笑って泣いて怒って――
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/02/21 17:30 |
レイア 49(全50話)
神様──
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/02/20 18:40 |
レイア 48(全50話)
私はリビングに戻り、薬箱を引っ張り出した。
中はからっぽだった。
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/02/19 16:34 |
レイア 47(全50話)
黎亜。
私は一兆粒ほども、涙の雫を零した。
来る日も来る夜も、泣いて泣きつづけた。
しかし黎亜は二度と頬を拭いに来てはくれなかった。
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/02/16 21:36 |
レイア 46(全50話)
呆然とする私の手を、やがて黎亜は私の膝の上に静かに置いた。
「冥界の使者、黎亜」それから黎亜は呟くように──本当にちっとも死神らしくなく──云った。「冥王の名の下に宣告す──生きなさい」黎亜は微笑んだ。「逝去の逝、ではないよ」
「どうして?」私の問いは見当違いだったかも知れない。
いや、見当違いというのならば、黎亜のその科白こそがそうだった。
どうして死神が、黄泉の使い魔が、生きることを奨励する?
「んではまた」黎亜はさっと立ち上がった。もう私の方を見てはいなかった。
「レイア...
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/02/16 15:22 |
レイア 45(全50話)
「昨夜、報せが来たのよ」黎亜は睫毛を伏せた。「お姐さんの生体エネルギーが、復活した、って」
「復活──って?」
「要するに」黎亜は目を開けた。悪戯っぽく笑っている。「栄養ついて元気になった、ってこと」
「──」私の瞳はきょろついた。
ああ。
そうか。
どうせ死ぬんだからと思ってダイエットをやめたことが、結果的に私の体を健康なものに変えたのだ。
「で、でもそれじゃ」私は首を振った、いやいやをするように。「レイアの仕事は?」
「土壇場キャンセルということで」黎亜はいよいよ楽しげ...
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/02/14 22:49 |
レイア 44(全50話)
見上げると、黎亜は目を幾分細めて私を見ていた。
「え……?」そう訊きながらも、キスをされるのだと、私は悟っていた。
胸の真ん中が、痛い。
どうして人は、誰かを愛しいと思うとき、胸に痛みを覚えるのだろう。
それにどうして人は、誰かを愛しいと思うときの胸のその痛みを、ちっとも苦痛に思わないのだろう。
私は不思議を覚えながらも、自分が彼の唇の温度を心待ちにしていることをまた悟った。
呼吸が、その機能が今にも気を利かせてとまってしまいそうだった。
黎亜はさっと私に顔を近づけ、...
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/02/13 23:13 |
レイア 43(全50話)
私の心臓はまた、こちょこちょ、とくすぐられた。思わず黎亜の手を両手の中に包み込む。「ねえ」
「うん」
「死んだら、もうレイアには、会えなくなる、のよね......」
「──うーん」黎亜は顔を右側に向けた。「かな?」そう云って首を傾げる。
「あの世に連れて行ったら、その後はもう忘れちゃう? あたしの事」
「そーれは」黎亜は私を見た。「なんとも」
「なんとも、って?」私は少し怒った。
「だって」黎亜はなんだか焦ったように笑いでごまかしながら弁解した。「つっても俺らが“連行”する数って...
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/02/11 18:03 |
レイア 42(全50話)
とても、とても楽しかった。
幸せな日々だった。
たとえそれが、ほんの数日のことだとわかっていても。
それは呑み込むと痛くって、私は見ない振りをしていた。
それは呑み込むと痛くって、私はそれに傷を負わされた。
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/02/10 08:53 |
レイア 41(全50話)
よかった、と思った。
心から、ほっとした。
食べ物は、私の内部をものめずらしそうに眺め回しながら、ゆっくりと下へ降りていった。
私の中から、尻に帆掛けて逃げ出したりしないでいてくれた。
私は少し震えながら笑い、黎亜も応えて笑ってくれた。
さあ、もう大丈夫だ。
死ぬまで、食べよう!
私はフランス料理、イタリア料理、タイ料理、広東料理、あちこち食事に出かけた。
いつも、黎亜と一緒だった。
黎亜は細身なのに結構力が強く(死神だからきっと、現代の物理では割り切れない...
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/02/08 17:26 |
レイア 40(全50話)
どうせ死ぬのなら、最後の最後まで毎日すし詰めの電車に揺られて嫌な上司や先輩後輩に突付かれたり謝ったり笑ったり、もっと嫌な顧客に下げたくもない頭を下げて、安い給料でこき使われた挙句に死ぬより、なけなしの定期預金を解約してパーッと使い果たして、満ち足りた思いをしてからニッコリ笑って死んだ方がいい。
それが、今となっては最良の、私の自己管理方法だ。
そう決めてからの毎日は、楽しかった。
映画も、観に行った。
買い物もした。
それから、食事も。
会社を辞めた翌日、私はそっと『ま...
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/02/07 23:07 |
レイア 39(全50話)
「最後のチャンスをやる」奇しくもその言葉を私に投げて寄越したのは、部長だった。「これで藤本商事の件がだめだったら、君には悪いが部署を変ってもらう」
最後の、チャンス──
あと、一回。
私の脳裡には、その事実がじわじわと炙り出されていた。
フェイントを使う権利は、残すところあと一回なのだ。
その後私は文字通り、死を待つのみの体となる──
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/02/06 16:08 |
レイア 38(全50話)
「あ傷つくわその云い方」黎亜は目を閉じて横を向いた。
「あごめん、だって」
「俺らでも、さすがに連行すんのが辛いときってのは、ある」黎亜はしんみりと告白した。
「嘘」私は笑った。「どんなとき?」
「例えば──子ども」
「──」私は吸い込んだ息をそのまましばらく止めた。
「それも──大人の手にかかって命を断たれた子ども、とかね」
「──」
「そういう時はやっぱし、辛い」黎亜は口を尖らせて、いつもの表情を作った。
私は、そっと腕を伸ばした。
黎亜の髪に触れる。
ふんわりし...
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/02/03 19:21 |
レイア 37(全50話)
「だからあ」私は黎亜の腕を掌で甘えるように押しながら質問しなおした。「もしレイアが普通の人間だとして、友達とかが自殺をほのめかしたりとか、実際にどっか高いとこから飛び降りそうになってたりとかしたら、必死でやめさせたりするのかって」
「そんなこと死神に訊く人、初めて見た」黎亜は後頭部を掻きながら苦笑した。「俺もまだまだ若いな! なんて」
「わかったって」私も苦笑した。「それで、どうする?」
「なんにも云わないよ」
「──どうして」
「俺はさ、自分を殺そうと思ってる奴を説得するのなんて、昨...
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/02/03 10:17 |
レイア 36(全50話)
「自己嫌悪、自己欺瞞、自己卑下、そういった気分の時には、自分の眉毛や睫毛に触れない方がいいよ」お茶を運んできた黎亜が云う。
「なんで?」
「ツンツルテンになるまで、引っこ抜き続けるからさ」笑いながら、まだ目の傍にある私の手をそっと握って下ろさせる。
「レイアはさ」私は導かれるままマグカップを手にしてまた訊いた。「いろんな人を、あの世に連れていったことがあるの? これまで」
「んー、まだそんなたくさんじゃないけどね」黎亜は小首を傾げて答えた。
「その中にはさ、自殺した人ってのも、いたわけ...
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/02/01 17:44 |
レイア 35(全50話)
彼を思い出すとき、私の心臓は喜んで活発に血を送り出し、私の毛細管はスムーズにそれを送り届け、私の細胞たちはときめいて力を生み出すのだ。
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/02/01 00:00 |
レイア 34(全50話)
契約を取り付けた商事会社からは、厳しい条件を後出しされ、結果的に売上増は期待ほどではないことが判明した。
私は何度も電話をし、訪問を重ね、我が社との提携のメリットを訴えつづけた、しかし現実という名の女神は私に微笑みはしなかった──微笑むのはただ死神だけだ。
「いい気味」
会社にいる間中、常にどこからかそういう囁き声がエアコンの風に乗って聞こえてくるような気がした。
目を上げればいつもそこに、嘲笑する顔が迫ってきているような感じに襲われた。
私はそれでも、平静を保っていた。
...
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/01/30 21:25 |
レイア 32(全50話)
うっすらと目を開けると、部屋の壁が斜めに見えていた。
ああ。
私は、倒れそうになったんだ──やっと私は事態を飲みこんだ。
「すんげえ、お疲れさんモード」黎亜が呟いて、私の体をひょい、と両手に抱え上げた。
──うわ。
私は、自分の体重が彼に大変な負担をかけるのに違いないということを恐れたけれども、黎亜は軽々と立ち上がって、ソファの上まで私を運んだのだった。
「すごい、力持ちね」私はうっすらと微笑んだ。
「だってめっちゃくちゃかりィもん、お姐さん」黎亜はおどけて云う。
「ふふ...
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/01/26 16:42 |
レイア 31(全50話)
「お帰りん」黎亜はまったくご機嫌な黎亜のままで、ペットボトル入りの清涼飲料を飲みながらテレビを観ていた。
視界が、ぐらついた。
私は自分の体がゆっくりと倒れていくのを感じた。
「フェイント、使う?」どこか遠くの方で、黎亜の声が聞えた。
「フェイント──」ゆっくりと倒れながら、私はぼんやり訊き返した。
「とも、このまま臨終する?」黎亜が遠くで、また訊く。
「──や、だ」私は眠りに誘われるときのような、半分意識をもって行かれた状態で、かろうじて答えを返した。「フェイント、使、う」
...
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/01/25 20:10 |
レイア 30(全50話)
「──」私はそれを見下ろした。ゆらゆらと、湯気が立つ。それを見ている内、涙が溢れてきた。私は首を振った。「──怖い」
黎亜は何も云わなかった。そっと目を上げると、彼はただ小さく頷いた。
頬に涙が落ちた。
自分はもうすぐ死ぬのだな、と、その時初めて私は体の底で理解した。
...続きを見る
ブログ気持玉 /
トラックバック / コメント
|
2006/01/24 22:30 |